卒業研究や学生実験の一環として、様々な方法で仙台市内の大気中二酸化炭素濃度の観測を継続しています。地球温暖化や温室効果気体の人為排出は地球規模の課題ですが、その問題のスケールが大きすぎるために、個人の生活とどのように関わっているのかを実感できるような機会は少ないかもしれません。しかし、実際に身近な環境において私たちの生活がどれだけ二酸化炭素を排出しているのかを知ることは、私たちが温暖化防止のためにできる小さなアクションのきっかけになると思います。当研究室が継続してきた仙台市内での二酸化炭素濃度の観測も、そのような身近な環境から地球温暖化問題を考えるための一つの材料になると考えています。特に、市内観測では、自動車などのエンジンの燃焼に伴う二酸化炭素排出の影響が捉えられているものと考えられます。以下に、いくつかの観測の結果を紹介します。
仙台市の中心部とその郊外を、徒歩や自転車・自動車などで移動しながら、二酸化炭素濃度を観測すると、場所によって二酸化炭素濃度が大きく異なることがわかります。一般に、都市大気の濃度は、清浄なバックグラウンド大気(直接的な人為発生源や生物活動の影響がほとんどない大気)に比べて数十〜数百ppm高くなります。観測を重ねて濃度データが増えてくると、全体的に仙台駅付近の中心部では濃度が高く、郊外に向かって濃度が低くなっていくことがわかります。また、自動観測によってデータの空間分解能を高くすると、交通量の多い幹線道路を横切るような場合に、その周辺で濃度が高くなることもわかります。仙台は「杜の都」と呼ばれ、市の中心部にも街路樹や公園があり、みどり豊かな街ではありますが、二酸化炭素はそんなイメージとは関係なく、大きな人為発生源の影響によって高濃度になっていることがわかります。
同じ経路において繰り返し観測を実施すると、同じ経路上であっても様々な条件によって二酸化炭素濃度の分布が大きく異なることや、交通量の多い交差点付近で濃度が高くなる傾向があること、東部の農地の割合が多い場所では比較的バックグラウンドに近い濃度が見られること、などがわかります。
上図は、2022年度に実施した観測結果をもとにして、仙台市における二酸化炭素濃度の分布を概略図として示したものです。濃度の分布をわかりやすく示すために、濃度の範囲を4つのカテゴリーに分けて色分けしました。交通量の多い中心部や幹線道路の交差点付近において濃度が高く、人為的な排出が強いことを示唆しています。今後、モーダルシフトや電気自動車の普及などによって、仙台市内の二酸化炭素濃度にも変化が起こるのか、長期的な変化も気になるところです。